キュノワールのボウル

日常使いのうつわのことを「雑器(ざっき)」と呼ぶけれど、僕は高価で希少価値の高い鑑賞用のうつわよりも、そんなうつわの方が好きだ。

うつわに載せるものはなんでも良いと思っている。もちろん料理でも良いし、小物入れにしても良い。うつわはなんでも受け入れてくれるおおらかな存在だ。

世の中にはいろいろなうつわがある。大きいものから小さいもの、深いものから浅いものまで。僕はどちらかというとパキッとした存在感のあるものより、柔らかいものが好きである。

ここで紹介するのはその中でも一際柔らかな雰囲気を持つひと皿、フランスで18世紀に使われていた「キュノワール」と呼ばれるボウルである。


上から見た写真。キュノワールの特徴である貫入が美しい。

「キュノワール」は「キュ(お尻)」、「ノワール(黒)」という意味で、その名の通り側面から底面にかけて黒い色(実際は濃い茶色)があしらわれたうつわの総称である。

これらの色味は釉薬によるもので、主にフランス北部を産地としていたらしい。

アンティークとしての弾数は比較的多く、蚤の市で出会うことはかなり多いけれど、値段が比較的高価なことと、あまりにもよく見るので食あたり気味になってしまい、正直なところこのボウルに出会うまではあまり触手が伸びなかった。

さて、このボウルに出会ったのは確か六本木のアークヒルズで開催されていた骨董市でのこと。アークヒルズの骨董市はマルシェと併設されており、週末散歩がてら何度か訪れていた。

大江戸骨董市と比べて出店数も少なく、いい意味で「ライト」な骨董市で、その日も何を買うつもりでもなく朝の散歩を楽しんでいた。

ふとした瞬間に偶然目に入ったのがこのボウル。店の数も少ないこともあり、「たまにはキュノワールもちゃんと見てみようかな」と思い手にとってみた事を覚えている。

まず最初に印象的なのは上部の白い釉薬の色味だ。真っ白ではなくほのかに青みを帯びており、こっくりとした釉薬ながら涼しげな印象を受けた。

そしてふと裏返してみると、現れたのが鎹止め(かすがいどめ)である。

3箇所に施された鎹止めの繕い。

鎹止めとはうつわのヒビの部分に小さな穴を開けて、そこをホッチキスのように金属で繕う手法。それが3箇所に施されている。もちろん経年で参加しているものの、今でもがっしりとヒビを支えたままだ。

「このリペアの雰囲気がいいんですよね。」と店主は言い、僕も全く同じ気持ちだった。下記の記事でも書いている通り、こういう小さなポイントがストーリーを想起させ、空気感を作り出すのである。

あわせて読みたい
フランスから来た刷毛(ハケ) 実用品として使われてきた道具は魅力的だ。 それはいわゆる「機能美」というものとはちょっと違う。長く使われてきた道具にはかつての使用者のストーリーが宿っており、...

キュノワールは総じてラフな使われ方をする事が多かったらしい。かつての持ち主が大事に使うために直しを入れたのだろう。

ものを大事にする思いが時を経てそのうつわの見どころとなった。

乳白色にほのかに水色を混ぜたような柔らかく爽やかな白と、どっしりと重みを感じさせるキュノワールのボウル。

こんなボウルにはあえて軽めな料理を盛りたい。

鮮やかでシンプルな葉物のサラダとか、こんがりとかためにトーストしたバゲットとか。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

コメント

コメントする

目次